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1.公共交通事業運営者民営化への動き


イタリアの公共交通制度は、1997年の法律第422号(通称ブルランド法)により、大きく変わることとなった。この法律による制度の再編は、下記に掲げる4つの基本的な輪郭をベースとして、各地域における公共交通機関の管理に変革を求めるものであった。

・ 本来は国の権限である運営と資産を州に移譲し、公共交通機関の計画と管理の地方分権をおこない、州は地方の事業者に任務と資産を分散する。

・ 公共交通機関の計画推進は、任務を遂行する事業者の協力のもと、州の責任においておこなう。計画は公共交通サービスの枠組みを決定し、公共交通の運営方法を策定し、資産の分配をおこなうためにも、市民の移動に関する要望を重視したものでなければならない。

・ 事業者の決定については入札を義務付けることとし、マーケットの自由化と門戸開放を
  推進する。

・ 事業の効率性を求めるように、管理者を公共団体から株式会社に移行する。
  事業費用に対する国の補助金を最大65%とし、残りの35%は運賃収入にて賄う。

1997年に公布されたブルランド法により見込まれた公共交通機関の再編は、広範囲に渡り実行されない、あるいは実行までに重大な遅れが見られた。特に地域公共交通計画策定と、運営事業者への権限委譲についてこの動きが顕著であった。市場の自由化に関しては、ブルランド法の後に続いた規則の変更や統合により、遅々として進まなかった。特に2003年の法律第269号は、運営事業者については入札による決定のほか、州の完全管理下における事業者や、州との半官半民による事業者の参入を認めたため、混乱に輪を掛けた。
その後の2004年の法律により、運営事業者についてはブルランド法が定めた通りに、入札による決定を義務付けられることとなった。

2.公共交通会社
イタリアの地方公共交通を管理・運営する会社は、Aziende di trasporto pubblico Italianeと呼ばれる。交通手段となるのは、バス・市電・地下鉄・鉄道。イタリアの各州に多数存在する。例えばラッチオ州には、郊外輸送を運営するCOTRAL社、ローマでバス・市電・地下鉄を運営するATAC社などのほかに6社が事業をおこなっている。

・ 公共交通会社の運営状況(ミラノ)
公共交通会社の一例として、ロンバルディア州ミラノにおける会社の運営状況を、以下の通り挙げてみる。

会社名=ATM(Azienda Trasporti Milanesi)
1931年にミラノ市内及び近郊における公共交通を運営する公共法人として設立。その後1999年に特殊法人、2001年に株式会社(ミラノ市出資)となった。
現在においては、ミラノ県内92市町村、人口約2百60万人の公共交通を担っており、年間の利用者数は約6億8千万人にのぼる。
ATM社はグループ会社であり、ATM株式会社を親会社として、各公共交通機関の運営・管理を担う100%子会社を10社、資本参加子会社を5社傘下に収めている。グループ従業員数は、約9千4百人。

地下鉄
3線を運行。総距離79.3KM。車両数855

市電
19線を運行。総距離179.5KM。車両数449

バス
102線を運行。総距離927.2KM。車両数1,505

トローリーバス
4線を運行。総距離40.8KM。車両数143


(トローリーバス)
ATM社は上記事業のほかにも、カーシェアリング・自転車シェアリングなどの環境対策事業や、コペンハーゲンにおける地下鉄運営管理などもおこなっている。
また変わったものとしては、ラジオバス(Radiobus)と呼ばれる夜20〜02時に運行するミニバスも運営している。これはタクシーとバスの中間サービスのようなもので、事前に予約しておけば、予約場所から目的地まで運んでくれる。
3.欧州における交通権
欧州においては、1970年代頃より人(公共交通を利用する人)を優先する方向で街作りが進められてきた。1988年には「歩行者(公共交通の利用者を含む)の権利に関する欧州憲章」が欧州議会により採択されている。
少し長くなるが、以下にその内容を転記する。

第1条
歩行者は、健康的な環境で生活を営み、かつ身体的・精神的な安寧が適切に保障された公共空間がもたらす快適さを、満喫する権利を有する。

第2条
歩行者は、自動車のためでなく人間の必要のために整備された、都市または集落に居住し、歩行や自転車による移動距離内で、生活の利便性を享受する権利を有する。

第3条
子ども、高齢者、および障害者は、都市において容易に社会参加の機会が得られ、彼らの有する不利(弱点)を増大する場でないように求める権利を有する。

第4条
障害者は、その自由意志に基づく移動、すなわち公共空間、歩行あるいは移動する交通路、および公共交通における整備面での配慮(誘導ライン、警告標識、音響信号、利用可能なバス、路面電車、列車)を最大化するような施策を求める権利を有する。

第5条
歩行者は、都市の計画と利用と調和し、かつ不合理な迂回を要さずに、安全に結ばれた経路から構成される歩行者の専用空間を、特定の限定空間にとどまらず、できるだけ広範囲にわたって、積極的に設けるように求める権利を有する。

第6条
歩行者は、特に以下の事項を求める権利を有する。すなわち,
1.自動車から発生する汚染物質と騒音が、科学者が許容限度と認めた限度を守っていること。
2.汚染物質や騒音を発生しない車両を用いた公共交通を利用できること。
3.植樹など、緑の空間を創出すること。
4.速度制限を適切に定め、道路と交差点の構造を、歩行者と自転車交通の安全を効果的に守れるように改善すること。
5.不適切、かつ危険な自動車の使用法を促す広告を禁止すること。
6.視覚および聴覚障害者の必要も考慮した、効果的な道路標識・道路標示の方法を提供すること。
7.運転者と歩行者が、自由に動き回り、かつ必要な場合にそこに留まることもできるように、車道と歩道に容易に出入りできるような設備を設けること。(滑りにくい歩道処理、段差の解消等)
8.自動車の最も外側(寸法的)にあたる部分の形状を滑らかにするように、車体や装備品を改善すること、また自動車の標識類をより効果的にすること。
9.危険を発生させる者が、その経済的影響を負担するような、負担責任の原則を導入すること。
10.道路上において、歩行者や軽車両等に配慮した運転が適切に促されるように、運転者の教育課程を構成すること。

第7条
歩行者は、複数の交通手段を合わせて使用することによって、困難なく移動の容易さが享受できるように、特に以下の事項を求める権利を有する。すなわち,
1.環境を破壊せず、広範囲かつ設備的にすぐれ、すべての市民のニーズに適合し、障害者に合うように物理的に配慮された、公共交通のサービスが提供されること。
2.都市の各所に、自転車のための設備を設けること。
3.歩行者の通行を妨げず、ビル街や商店街での散策の楽しみに影響を与えないように、駐車場の位置が考慮されること。

第8条
構成国(欧州議会の)は、歩行者の権利および、環境を破壊しない交通体系への代替に関する充分な情報が、適切な手段を通じて社会的に周知されるように、また子どもの初等教育への最初の就学の時点から、それが利用されるように、保障しなければならない。
※第8条を除き主語は「歩行者」はとなっているが、公共交通の利用者を同義に扱っている。

欧州構成国の一員であるイタリアも、近年において特に環境保護・持続できる公共交通を主眼に、さまざまなプロジェクトに参加している。
以下にその一例を挙げてみる。

・ The CIVITAS(City-Vitality-Sustainability)Initiative計画
欧州連合出資によるプロジェクト。持続可能な都市交通のためエネルギー、交通、環境の各目的を統合した戦略の試験的な実施を支援し評価するもの。重要施策の 1 つとして「クリーンな燃料と自動車」があり、バイオディーゼル、バイオガス、ハイブリッドカー、電気自動車について技術導入や燃料供給インフラ整備、公共調達などの面から実証試験を進めている。2002年からスタートしたプロジェクトであり、2002年〜2009年におけるプロジェクトI, 2005年〜2009年におけるプロジェクトII,を経て現在は2008年〜2012年におけるプロジェクトIIIの段階にある。

イタリアについては、下記の各都市が参加している。
ローマ = プロジェクトI の中のCIVITAS Miracles計画
ポテンツァ = プロジェクトII の中のCIVITAS Smile計画
ヴェネチア = プロジェクトII の中のCIVITAS Mobiles計画 
ペルージャ = プロジェクトIII の中のCIVITAS Renaissance計画
ブレーシャ = プロジェクトIII の中のCIVITAS Modern計画 
ボローニャ = プロジェクトIII の中のCIVITAS Mimosa計画
モンツァ = プロジェクトIII の中のCIVITAS Archimedes計画  

各計画の目標についての概要

・ CIVITAS Miracles(ローマ以外の欧州3都市も参加)
1. 街レベルにおける交通がもたらす環境被害の減少
2. 公共交通・個人交通利便性の向上
3. より良い公共交通・個人交通の管理による経済効率の向上
4. 市民生活の質の向上

・ CIVITAS Smile(ポテンツァ以外の欧州4都市も参加)
バイオ燃料使用の交通機関促進による、空気の清浄化・生活レベルの向上・健康の向上。

・ CIVITAS Mobiles(ヴェネチア以外の欧州4都市も参加)
1. ガソリン以外の代替燃料を使用し、クリーンでエネルギー効率の良い車の使用促進
2. 個人使用車から公共交通機関使用への変換推進
3. 公共スペースの質の向上と公平な分配
4. 街の騒音減少と空気清浄化

・ CIVITAS Renaissance(ペルージャ以外の欧州4都市も参加)
交通と環境に対する市民の意識を高めさせ、社会的にも経済的にも大きく依存している歴史ある街の伝統・文化・建築物を交通による汚染から守る。

・ CIVITAS Modern(ブレーシャ以外の欧州3都市も参加)
現存し商業的にも利用可能な技術と、より良い交通システムを目指す活動との大規模な融合を目指す。例として公共交通において、よりクリーンな車両への変換を促進する。

・ CIVITAS Mimosa(ボローニャ以外の欧州4都市も参加)
持続可能な都市交通を目指し、どうすればより良い移動ができ、より良い街に住むことができるかを追求する。

・ CIVITAS Archimedes(モンツァ以外の欧州5都市も参加)
クリーンで、エネルギー効率が良く、持続可能な都市交通を実現するための戦略を打ち出し、各国のエネルギー・交通・持続可能な環境に関する政策に影響を与えられるようにする。

4.イタリア公共交通機関の環境対策・持続性の現状
Euromobilityという協会が、"持続可能な移動性についての観察"2011年度版を発表しており、以下のデータが出ている。

・ イタリア人の移動状況
普段仕事や学校に行くために、どういう移動をおこなっているか。
66.6%=家がある同じ市町村内の移動
33.4%=他の市町村への移動

・ 移動手段
16.8%=徒歩、あるいは自転車
69.1%=自家用車、あるいは自家用オートバイ
14.1%=公共交通機関

・ GPL・メタンガス車
24.4%=所有している
75.6%=所有していない

・ GPL・メタンガス車は、ガソリン・軽油と比べて環境汚染が少ないと思うか
36.0%=非常に思う
40.8%=そう思う
 9.9%=少し思う
 5.0%=そうは思わない
 8.3%=わからない

・ 自転車シェアリング制度について
21.2%=知っている
78.8%=知らない
(自転車シェアリング制度がある街の住人)
39.1%=知っている
60.9%=知らない

自転車シェアリング及びカーシェアリングは、自家用車の使用を減らし、環境汚染の改善に繋がるとしてイタリアでも勧められているが、実態を見ると例えば自転車シェアリングの場合、ブリュッセルでは180の駐輪場で2,500台、パリでは1,800の駐輪場で20,000台、バルセロナでは428の駐輪場で6,000台、ロンドンでは400の駐輪場で6,000台の供給があるが、イタリアにおいては1,000台以上あるのはミラノの1,400台だけとなっている。
カーシェアリングの実態も酷く、ブリュッセルが人口14万人に対して227台、ミュンヘンが84万人に対して345台の供給があるが、人口数で優るローマが105台、ミラノが86台(2010年時点)といった状況である。

環境汚染を減らし、持続可能な交通に向けての方向性はあるものの、具体的な政策・計画・投資を考えた場合には、まだ充分ではなく欧州の中でも遅れていると言える。

以上
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