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1.名前の由来
MO.S.E.=Modulo Sperimentale Elettromeccanico
(実験的電気工学モジュール)の頭文字を取った名前。
「出エジプト記」に登場し、海を割って道を作る奇跡を成したとされる預言者モーゼの名前に掛けていると思われる。
2. 目的

 モーゼ計画の目的は、アックア・アルタ(Acqua Alta)と呼ばれる高潮への防御対策。
高潮は古代より冬・秋・春にヴェネチアの街や、ラグーナ(潟)の居住地を苦しめてきたが、最近数十年は特にその被害が悪化している。


▲ヴェネチア高潮時の街中
 ラグーナ流域の潮流に関しては、世界の他の場所から見れば、上昇傾向はまだ少ないとはいえ、ヴェネチア湾の波を押し上げるボラ(トリエステを発生源とする北東の風)や、シロッコ(南西の暖かい風)の圧力や作用のような大気現象と気象現象の要因が組み合わさった場合には、ラグーナ流域の潮流を上昇させる可能性がある。
水位の上昇現象は、これら自然が原因になるものや、マルゲーラ港域での工業用水の汲み上げによる地盤沈下により水位の上昇を招くなど、人的原因もある。

モーゼ計画は、これら水位の上昇を招く自然・人的要因、あるいは地球温暖化による水位の上昇といったことも含め、対応策が取られている。
モーゼ計画における可動式バリアは、最も悲観的な仮定とされる海面の60cm上昇が将来的にあったとしても、ラグーナを効果的に防御するとされている。

近年ヴェネチアの街を襲った大規模なアックア・アルタは以下の通り。

年度
水位
1936
147cm
1951
151cm
1960
145cm
1966
194cm
1968
144cm
1979
166cm
1986
158cm
1992
142cm
2000
144cm
2002
147cm
2009
145cm
2010
144cm
1926〜1965年にかけて、水位が110cmを超える大きな浸水は21回発生しているのに対して、1966〜2010年にかけては191回発生しており、近年になって規模の大きなアックア・アルタの発生が増加していることが示されている。
3.モーゼ計画の歴史
 高潮に対する防災計画は、1966年11月4日に発生した大規模な浸水を受け、ヴェネチア及びラグーナにおける他の中心居住地の安全性を早急に保証する必要性により、1970年代に検討されるようになった。
その日、強いシロッコに押し上げられた海は、水位194cmというヴェネチアの歴史上記録されたことのない高さまで達している。
イタリア政府は、1973年の最初のヴェネチア特別法にて、アックア・アルタは卓越した国家的財産であるヴェネチアの問題であると宣言した。

1970年代初頭、国家研究審議会(CNR = Consiglio Nazionale delle Ricerche)は、初めて防災計画のコンペを促し、それを受けて公共事業省が1980年に政府調達としての防災計画案を公募した。
提出された防災計画案のうち、計画案の実現性も含め計画案の評価を担当した水力学者会により、6つの案が残った。 いわゆる"計画案"が1981年に提示され、それは可動式防御建築物と一体になった、港の開口部に取り付けされる閉鎖堰を予見していた。 計画案の提示は、公共機関・科学者・政治家・文化人・メディア・国民を巻き込んだ長期に渡る論争の幕開けとなった。

防御計画策定のための戦略や意見をまとめるために、1984年に二回目のヴェネチア特別法の制定となり、計画案の方針・管理・協働委員会が設立され、公共事業省に対して、民間企業による統一共同体に対する計画進行の許可権を譲与した。
これにより、防御堰の計画立案及び実行については、1982年に設立された約50社からなる共同体であるヴェネチア・ヌオヴァ審議会に委託されることとなった。

ヴェネチア・ヌオヴァ審議会は、4年間に及ぶ数多くの防御堰に対する調査・研究・分析の後、レア計画(Progetto REA = Riequilibrio E Ambiente 再安定と環境)と呼ばれるヴェネチア防御案を1989年に発表、その計画の中には港開口部における予備的全体計画も含まれており、実質的にモーゼ計画の誕生となった。
プロトタイプによる実験と改良の後に、新たなモーゼ計画は1994年に公共事業上級評議会の審議に廻され、上級審議会はモーゼ計画以外のアックア・アルタ対策案も検討した結果、モーゼ計画を承認することとなった。

1997年、水道局とヴェネチア・ヌオヴァ審議会は、プローディ首相により任命された5人の国際的識者によりモーゼ計画が環境に及ぼす影響は少ないとの評価がされた報告書を提出。しかしながら同年、環境省の環境評価委員会により、環境への影響が大きいとの報告がなされたため、モーゼ計画は新たな調査を余儀なくされた。
2001年、アマート首相率いる閣議は、モーゼ計画が及ぼす環境への影響に関する審議を結論づけ、計画におけるいくつかの問題点を解決することを条件に、計画実行へのゴーサインを与えた。2002年にヴェネチア・ヌオヴァ審議会は、交通省と港湾局の要求を取り入れた最終計画書を提出。同年、CIPE(Comitato Interministre per la Programmazione Economica = 経済計画省庁間委員会)は、最初の工事となる2002〜2004年の三ヵ年事業に対して、4億5千3百万ユーロ(約500億円)を供出。2003年にはベルルスコーニ首相による起工式によりモーゼ計画最初の資材製造所が造られた。


▲資材製造所
モーゼ計画全体では、46億7千8百万ユーロ(約5千150億円)の費用が見込まれており、資金が予定通り投入されれば、2014年に完成する予定。現在までに約70%の工程が終了している。

▲設置工事現場
4.モーゼの仕組み
 フラップ・ゲート式可動堰。
平常時には、フラップ・ゲートは海底に格納され、高潮時にはゲート内に圧縮空気を注入することにより、ゲートが海面から顔を出す仕組みとなっている。

A = ラグーナ側
B = 海側
1 = 海底基盤
              2 = フラップ・ゲート(縦20〜30、横20、厚さ5メートル)
3 = 圧縮空気
4 = 海水
潮位が通常より110cmを超える高さが予想される場合に稼動開始となり、ゲートを上げるのに約30分、降ろすのに約15分かかる。
ラグーナ側と海側の水位差が最大2メートルまで耐久できる。
動画サイトであるユーチューブ内に、英語版でこの動きがよく分かる動画がアップされているので、参考までにURLを記載する。
http://www.youtube.com/watch?v=NUXNhYshUbw
5.モーゼの設置場所及び設置数
● リド港 (Porto di Lido) 41個
● マラモッコ港 (Porto di Malamocco) 19個
● キオッジャ港 (Porto di Chioggia) 18個
合計
78個

▲設置場所表示図
6.モーゼ計画への批判

 モーゼ計画への主たる批判は、計画当初から環境学者や政治家から通告されていたように、オランダやイギリスのようにヴェネチアと同じような問題に直面している他の国々の防御システムと比較して、建造・管理・修復コストが著しく高いという費用面での問題である。

現在建造を請け負っている共同体は、建造後3年間のみ修繕維持に責任を負うため、建造後3年経過した後の故障等の費用や、運用管理費用については、ヴェネチア市、県、州が費用負担することになり、その額が顕著であるという批判となっている。

費用面のほか、フラップ・ゲートの基盤設置に完全な平面が求められるため、海底の水平化をおこなったり、海底下に打ち込まれた数多くの石杭の上に基盤を置くための海底の強度化工事が及ぼす環境への影響や、ラグーナの精巧な生態系への重大な悪影響の懸念についても言及されている。

また、将来的な海面の上昇が予測される中で、モーゼの構造自体が不十分ではないかという、根本的な批判も存在している。

7. モーゼ計画以外の対策案
 2005年に、ヴェネチア市管理委員会の主導にて、モーゼ計画に替わり得る対策案の募集と検討がおこなわれた。実際にはそれ以前より調査・研究されていた対策案であり、以下に、その応募案の一部を紹介する。
● La Paratoia a Gravita (重力式フラップ・ゲート)
建造物の外観はモーゼに似ているが、ゲートの起立する方向が、モーゼがラグーナ側なのに対して、本件は海側に起立する。起立する際に潮流の助けもあるので、送り込む圧縮空気の量が少なくて済む。
● Bracci a Traliccio (格子型骨組みアーム式ゲート)
港の開口部をアーム式ゲートで塞ぐ。船の航行時や平時にはアームが収納される。

Bracci a Traliccio
● Dighe Omeodinamiche a Gestione Evoluta (類似力学的堤防)
開閉式の堤防。

Dighe Omeodinamiche
8.モーゼ計画への反対あるいは改善要求運動

 モーゼ計画は、承認された後も代替案が検討されるなど、順調に進行しているわけではない。計画自体の中止を求める声も多かった。

モーゼ計画のスタートから現在までの何年かの間に、9つの計画に反対する上訴が提出されている。 8つは州裁判所及び国会により却下されており、2008年11月にヴェネチア市とWWF(世界自然保護基金)から提出された9回目の上訴も却下された。9回目の上訴は、マラモッコ港における基盤の設置工事が、特別な自然環境破壊につながるという内容であった。

環境保護団体は、工事による環境破壊を懸念し欧州連合に対しても介入を求めた。
2004年3月5日の国会議員ルアーナ・ザネッラ(Luana Zanella)による陳述に対し、2005年12月19日付けで、欧州委員会はイタリア政府に対して、欧州環境委員会がラグーナの生態系の汚染、特に野生の鳥類への悪影響を懸念しているため、モーゼ計画の実行に関して、環境を守るための手段を考慮することを促す文書を送付した。
欧州環境委員会は、モーゼ計画の停止を意図したものではないということを明らかにしたうえで、イタリア政府に対して環境破壊を軽減する方法を考慮するように提議したことになる。

ヴェネチア水道局とヴェネチア・ヌオヴァ審議会は、資材製造所は一時的なものであり、工事終了時には使用した場所を元通り復元することを強調してきた。
2008年12月に、ヴェネチア水道局とヴェネチア・ヌオヴァ審議会は、ブリュッセルの欧州連合本部に対して、実行を要求された工事と資材製造所が環境に与える影響についてのチェックに関する報告書を送付した。

2009年4月19日、欧州環境委員会はイタリア政府により採用された環境破壊を軽減するための方策について記録を残し、イタリア政府に対して提訴した環境破壊に関する一件を手仕舞いとした。
この欧州環境委員会の決定は、モーゼ計画のために欧州投資銀行が審議していた15億ユーロ(約165億円)の融資ストップの解除に繋がった。

9.リアルト計画

 モーゼ計画は、高潮対策であるが、高潮に襲われなくともヴェネチアには地盤沈下の問題が残っている。
これに対抗して、ヴェネチアの街を上げよう、という計画があり、ヴェネチアの有名な橋にちなんでリアルト計画(Progetto Rialto)という案がある。


リアルト計画による、底上げ方法の一連工事
リアルト計画とは、上図にあるようにジャッキのような機械を建物の基盤に据付け、建物ごと上に揚げる方式である。
● 最大2.7メートルまで底上げが可能
● 工事期間は、1,000平米に対して約10ヶ月
● コストは、1平米あたり2,500ユーロ(約28万円)
街の地盤沈下に対して、費用的にも工事方法も一つの有効な手段として検討されている。高潮に対するモーゼ計画と合わせ、ヴェネチアを守るための方策がいろいろと検討・実施されている。
以上
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